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神戸地方裁判所姫路支部 昭和34年(わ)336号 判決

被告人 森元秀勝 外三名

主文

被告人森元を懲役二年六月に、被告人高松、同森本、同堀江を各懲役二年に処する。

但し、被告人四名に対しこの裁判確定の日から各三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となる事実)

被告人ら四名はいつも行動を共にしている友人仲間であるが、昭和三十四年七月十一日夜連れだつて加古川市内に遊びに出て、同夜遅く国鉄加古川駅前に行つたところ、たまたま被告人森元が、同駅待合室にいた仲居A(当時二十六才)が神戸市に帰ろうとして終列車に乗り遅れ、所持金も少く困つている事情を聞き知り、同女を騙して淋しい所へ連れ出し、他の三名の力を借りて共に同女を無理に姦淫しようと企て、同女に対し「神戸まで自家用自動車で送つてやろう、自動車のおいてある所まで一緒に行こう」とうそを言い、駅待合室付近にいた被告人森本らには、女を連れて行くからついてこいとひそかに連絡したうえ、同女を自転車の荷台に乗せて、翌十二日午前零時三十分頃同駅東南約二千二百メートルにある同市野口町良野前代七百八十九番地所在の畑に連れ込み、一方、被告人高松、同森本、同堀江は被告人森元の意図を知つて自分らも同被告人と共に同女を姦淫すべく後から自転車で同所に追いついてきて、ここに被告人四名は共謀のうえ、被告人森元は暴れる同女をその場に押し倒してズロースを脱ぎとり、被告人高松は同女の足を掴んで押えつけるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、被告人森元、同高松、同森本、同堀江、同森元(二回目)の順に次々と同女の上に乗りかかつて強いて同女を姦淫したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人らの判示所為は刑法第百七十七条前段、第六十条にあたるので、所定刑期範囲内で被告人森元を懲役二年六月に、被告人高松、同森本、同堀江を各懲役二年に処し、諸般の情状に照し右刑の執行を猶予するを相当と認め、同法第二十五条第一項第一号に従い、被告人四名に対しこの裁判確定の日から各三年間右刑の執行を猶予することとする。

(強姦致傷の訴因中、致傷の点を認めない理由)

本件訴因は、判示強姦の姦淫行為によつてAに対し加療約一週間を要する膣部損傷(粘膜下出血)の傷害を与えたとの強姦致傷になつており、証人山本四明男の当公廷における供述、医師山本四明男作成の診断書によると、山本医師がAを診察した当時(判示犯行と同日の午前十時頃)に同女の膣部に右損傷のあつたことは十分認めることができる。しかしながら、右山本証人の供述及びAの捜査官に対する供述調書によると、A自身は右損傷のあることを診察時まで全く自覚していなかつたもの、即ちいつどんな原因で傷を負つたか知らなかつたものと認められる。そして右山本証人の供述によると、前記損傷は診察時より十二時間以内に受傷したと思うと供述しながら、他面では、受傷後の経過時間は診察所見のみによつては正確な判定は難かしく、被害者本人に対する問診や被害者と同行してきた警察官の説明を併せ考えて右のように判定したとも述べているのであるから、右供述によつては前記損傷が判示強姦の際に生じたものと即断し難い。又右証人の供述によると、粘膜下出血は一般に鈍器様のものが作用した時に生ずるものであつて、粗暴な性行為によつても出来ないことはないが、本件の場合その出血斑は〇・三センチ×〇・二センチという極めて小さいもの一個だけであるから、これを性交によつて生じたものというには少々疑いがあり、結局本件出血が何によつて生じたかは患部の所見だけでは判定できず想像がつかない旨述べているし、性交以外に被告人らがどのような外力(たとえば手指の挿入)を膣部に加えたかは証拠上明らかにされていない。以上述べたとおり、前記損傷が本件強姦の際に生じたものか否か、それが被告人らの行為に起因するものか否かは前記証拠によつては断定し難く、その他に右事実を肯認するに足る証拠もないから、本件強姦致傷の訴因中致傷の点はその証明がないことになるが、もとより判示の強姦と同一公訴事実の範囲内にあるから、主文においてこの点につき無罪の言渡をしない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 福島尚武 藤野岩雄 西池季彦)

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